会長挨拶

 このたび、北の大地、札幌にて、「患者のための自己血輸血」をテーマとして、第29回日本自己血輸血学会学術総会を開催することになりました。
 最近、同種血輸血が患者転帰に悪い影響を及ぼしている可能性が指摘され、また少子高齢社会において血液の需給バランスが悪化することが懸念されています。その様な中、新しい輸血の流れとして、患者中心の輸血医療(PBM; Patient Blood Management)が定着してきました。PBMでは、輸血が必要になるであろう治療を患者自身の血液で完結させることが最優先課題となり、その実践には同種血輸血を回避する方策が必要になります。
 わが国では輸血による感染症、とくに輸血後肝炎予防策として、自己血輸血が積極的に用いられ、独自の進歩を遂げてきました。自己血を用いる、すなわち同種血輸血を用いない輸血医療を実践してきた先達の取り組みは、現代のPBMを先取りしていたものと考えられます。貯血式自己血輸血に関してみれば、献血者血液の安全性向上や、貯血しても廃棄率が高いなどの理由で、日本を除く先進国ではほとんど実施されなくなりました。自己血輸血は、同種血輸血に比べ安全で患者に益するものとして、我が国固有の文化の様相をもって発展してきました。しかし、とくに貯血式自己血輸血は、患者のために本当に役立っているという科学的根拠は少ない現状です。
 今後、日本でPBMを普及して行くにあたって、本学会はリーダーシップを発揮し、積極的に関わることが必要です。そのためには、自己血輸血を科学することが不可欠と考えられます。本学術総会では、その様な観点から自己血輸血の将来的意義を皆様と共に考えていきたいと思います。
 3月の札幌は、春に向け寒さが次第に和らぎ、陽差しも柔らかな暖色系に変わっていく新しい息吹を感じる季節です。また、海明けのオホーツク海のカニも美味しく、春告魚と呼ばれるニシンも旬の季節です。近郊の山ではウインタースポーツも楽しめます。是非とも札幌へお越しのうえ、その魅力を存分に楽しんでいただければとお願い申し上げます。
平成27年7月吉日
第29回日本自己血輸血学会学術総会会長
日本赤十字社北海道ブロック血液センター副所長
紀野 修一
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