待機的手術における貯血式自己血輸血(以下、自己血輸血)は、同種血輸血に伴う肝炎などの感染症の伝播、免疫学的な副作用、輸血後移植片対宿主病(GVHD)のリスクを回避し得る理想的な輸血療法と考えられてきました。しかし、献血者のHBV、HIV、HCV抗原、抗体スクリーニング検査の改良およびウイルス核酸増幅検査(NAT)の導入、輸血後GVHD防止のための輸血用血液の事前放射線照射、さらには、保存前白血球除去、初流血除去などの効果的な対策の結果、献血血液は著しく安全となり、自己血輸血が同種血輸血に比べて、無条件で安全有用な輸血療法とは言い難い現状であります。
　そして、自己血輸血には、同種血輸血以上に、｢細菌汚染｣および｢輸血過誤｣という重大なリスクが内在している点に留意する必要があります。特に、細菌汚染に関しては、採血マニュアルを遵守している血液センターの看護師に対し、自己血輸血を実践している医療機関の大半の医師、看護師は輸血用血液の採血、取扱いに不慣れであるという問題があります。さらには、採血時の血管迷走神経反射(VVR)や採血に伴う貧血への適切な配慮も求められます。
　同種血輸血に対する自己血輸血の優位性を保つために、自己血輸血の適応判断、自己血貯血計画の策定、自己血採血、保管管理、戻し輸血に至る全てのプロセスに関する適切なリスクマネジメントが絶対条件と考えられます。輸血療法の実施に関する指針に、自己血輸血が｢実施管理体制が適正に確立している場合は｣、｢最も安全な輸血療法｣で｢積極的に推進｣すべきと規定されている所以であります。
　今般、「適切な自己血輸血実施体制の確立を求めて」をメインテーマとする第25回日本自己血輸血学会学術総会を平成24年3月2日(金)、3日(土)に東京大学本郷キャンパスにおいて開催させていただくことになりました。第7回学会認定・自己血輸血看護師認定試験も開催致します。構内には安田講堂、赤門、三四郎池ほか散策に適した場所が数多くあります。また、2012年5月22日開業予定のスカイツリーも間近で見ることができます。
　多くの皆様が学術総会にご出席下さることを心からお願い申し上げます。